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『クジラの彼』の感想 [2007年12月22日(土)]


 『クジラの彼』  有川浩/徒花スクモ
 角川書店/2007.1.25/\1400  ⇒『bk1』で詳細を見る



 
『あたしのクジラ乗りさん、真面目なクジラ乗りさん。
  どうか、無事で。』


<ご紹介>
『図書館戦争』シリーズが無事完結した有川浩さんの、全6話の短編集。 全てが自衛官の恋愛話なのだ異色。 既刊『海の底』『空の中』からのスピンオフも有って、従来読者も有川初心者も親しみやすい1冊です。

自衛官との合コン。 あまりの異職種に興味を引かれ、人数合わせの会合に顔を出した聡子は、これまた頭数扱いの優男・冬原と出逢う。 潜水艦はクジラに似てる、と口走った聡子を冬原はいたく気に入り、恋愛が始まる。 潜水艦乗りとの遠距離恋愛は想像以上に過酷だし、アホな上司にアホな勘違いをされながらも、聡子は気丈に彼を待つ。 しかしある日、冬原の乗る艦が海で座礁したと聞き…。【クジラの彼】
    →関連記事 『図書館戦争』の感想
    →関連記事 『図書館内乱』の感想
    →関連記事 『図書館危機』の感想
    →関連記事 『図書館革命』の感想


<感想>
女性作家が描くいわゆる「恋愛小説」が苦手な私が、どんどん読めた1冊です。 Web拍手で「スピンオフ作品があるので本編を先に読むのも良いですよ」とアドバイスを貰ったのに、それも間に合わないスピードで読めてしまいました(笑)。 教えてくださった方、ありがとう+スミマセンでした…w

でも多分私、恋愛部分よりも、ふだん馴染みの少ない自衛官たちの生活ぶりの方を興味深く読んでました。 体育会系のノリに無縁の生活をしてきたので、『図書館戦争』でも郁たちが見せる生き生きとした訓練生活が新鮮だったけど、今回はそれ以上に目新しかったです。 だって考えたこともなかったもん、輸送機のトイレがどうなってるかなんて!!(笑)(『ロールアウト』参照)。

自衛隊員たちが繰り広げる、普通の恋。 遠距離恋愛も同僚との恋に傷つく様子も、その気持ちは私たちと同じ。 ただちょっと、遠恋にしても距離が遠すぎたり(何しろ想い人は文字通り、電波も遮る鉄壁の中だ)、男にフラれる理由が割れた腹筋だったりと特殊だけど、でもやっぱり恋する気持ちに違いはなくて、むしろ純粋かも、と思わせてくれるお話ばかりでした。 

以下、各話語り。 ちょい長めになってしまいました(スミマセン)。
●クジラの彼
表題作にしてあらすじのお話。 既刊『海の底』からのスピンオフ作品らしいけど、未読の私にはその辺の流れは不明。 多分、冬原の乗る艦が座礁するあたりを本編では描いてるのかな…?と予想したけど、そこが分からなくてもこのお話を堪能することは出来ます。 むしろ、冬原という人物をよく知らないからこそ、ヒロイン聡子寄りの感情で読めたのかも。  

言葉のセンスに惚れた、なんて私も言われてみたい(笑)。 そんなのもう、お互い根幹で通じ合ってなきゃ嘘ってくらい運命的だもの。 それなのに、「いつでも別れた事にしていい」と言わなきゃいけない冬原の気持ちってどんなだろう。 泣きたいときに一番会いたい相手のくせにって切なくなりました。
でもラスト、「待つのは今までほどつらくない」と聡子が妙にさっぱりしてるのは、冬原が聡子を尊重して別れてもいいと言ってくれるよりも、ヤキモチを焼いた彼の姿に「真実」を見たからですよね。 思い遣るより、我が儘に近い感情をぶつける方が大切な時もあるっいう幸せ。 素敵だなと思いました。 個人的に、一番見習いたい二人でしたw


●ロールアウト
航空自衛隊の輸送機設計に携わることになった宮田絵里。 そこで次世代機への要望を高科三尉に尋ねると、答えは意外にも「トイレ」ということで…!?
輸送機のサニタリーを巡る…これは、ラブコメ?(笑) 私もトイレ大好き人間なので(笑)、高科の言い分には大賛成でした。 絵里ちゃんが高科にカーテン一枚で遮られたトイレに詰め込まれるシーンは、想像して思わず大爆笑!! こちらの要望をいかに実現させるか、という社会人の手腕を問われているような気もして、何だか楽しく読めました。 こんな風に好きな人と、カッコよくお仕事できたら幸せですよね。 個人的に、一番お気に入りの作品w 


●国防レンアイ
生意気で可愛げがない、とは男性陣のWAC(女性陸上自衛官)に対する評価。 でも、伸下三曹は思う。 WACの真の恐ろしさは、それなのにたまに猛烈に隙だらけでめっちゃ可愛いところなのだ。 彼の想い人・三池三曹もまたそんなタイプの困った人で…。
すっかり上下関係の「下」に落ち着いてしまった伸下隊員と、美貌とやっかいな性格で「上」に立つ三池隊員との、ある意味一番正統派なラブコメw 都合よく使われてるだけだという忠告に、それでも三池が醜態を曝すのは自分の前でだけ、という妙な自負を持って愛し続ける伸下くんが、非常に好みで仕方ありません(笑)。 そんな彼の決め台詞、「お前よりちっちゃい女が一生懸命国防やってんだよ」には、自衛隊員としての誇りと三池さんへの愛が凝縮されていて、想いが通じるラストはまるで濃縮還元ジュース張りに甘々でした。 個人的に、一番幸せになって欲しい伸下くんです(笑)。


●有能な彼女
潜水艦乗りの夏木の彼女・望は、非常に可愛くてしかも有能。 帰還する度に望がまだ自分を待っているのか不安な夏木だが、望にずっと言いたいことがあって…。
『海の底』からのスピンオフにして、『クジラの彼』にも登場した夏木くんの、七面倒くさい(笑)レンアイ話。 いや、面倒くさいのは夏木くんではなく望ちゃんなんだけど、実はリアル友人に「外見は無理だけど、内面の面倒くさい感じがアンタに近いよ」と言われてしまったりるです…(笑。しかも何だ前半部分の含みは)。
それはともかく、夏木がいかに望ちゃんにゾッコン(死語?)なのかがめっちゃ伝わってくる、ベタ甘なお話でした。 一喜一憂するのは、好き過ぎるから。 そんな彼を支える冬原も夏木さん好きーみたいで微笑ましく(笑)、夏木目線で望を描いているにも拘らず、結局夏木がいかに良い奴かが伝わってくる仕上がりになってるところが上手ではないかと。 こんなの読まされたら、『海の底』を読んでみたくなります。 困ったなぁ(と、幸せ顔w)。 個人的に、一番他人事に思えないお話(笑)。


●脱柵エレジー
「今すぐ会いたい」。 恋人のそんな甘い言葉に惑わされ、隊員が脱走することを「脱柵」と呼ぶ。 迷える子羊のため、経験者の清田和哉二曹が語る自身の恋愛話とは…?
子供の恋と大人の恋の違いを、しっとりと情感たっぷりに描いた作品。 若気の至りなんて言葉があるけど、清田が経験した「恋」はまさにそれ。 残酷で単純な勢いこそを「恋」だと思い込んでいた素敵な経験に、思わず私も自己を省みたりして…いや、そんな純粋さ無かったなって(笑)。 でも、数年後に清田と吉川さんみたいな恋愛に昇華できるのならば、その幼さも悪くない。 むしろ、大切だなって思わせてくれました。 個人的に、短編の出来として一番の秀作だと思ってます。


●ファイターパイロットの君
高巳の奥さん・光稀さんは、日本でも数少ないファイターパイロット。 飛行機が好きな二人の初デートとは? そして現在の結婚生活とは…?
どうやら既刊『空の中』からのスピンオフらしいです。 そして恐らく、作中で一番の甘いお話w 初デートの初々しさがばっちりですよ!! 光稀さんの豊かな表情が文章越しにも鮮やかで、高巳くんがどきどきする様まで鮮明でした。 可愛い〜w そして、その可愛さがそのまんま現在の結婚生活に続いている素敵さと、その陰にある現実の壁の対比が非常にリアルで、なんとも言い難い切なさがあります。 孫にそんな事を吹き込む大人の良心を疑い、哀しくなり、それでも親を信じる茜ちゃんにひたすら涙!! 今まで5編の「恋物語」を読んできて、最後を飾るのが「家族愛」だっていう構成もお見事。 個人的に、一番身悶え度が高かったお話です(笑)。


<まとめ>
恋から愛への変遷をきちんと辿ってある恋愛小説集。 シリアスな設定はあるものの、どろどろした恋愛話ではないので、苦手な人も読みやすいハズ。 既刊本を知らなくても読めますので、幅広くオススメです★


<関連サイト様>
●感想拝読しました・・・『Alles ist im Wandel』 『粋な提案』 『悲しいけれど僕にはわからない』 『忙中閑あり、カルチャーあり』 『読書日記★PNU屋★』 3/6『☆My Comic List☆』
●TB送信先サイト・・・『読書感想トラックバックセンター』
●この本を買う・・・『bk1』 / 『Amazon』



Posted at 23:15 | 小説>有川浩 | この記事のURL | Clip!!
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イラストは徒花スクモ。装丁は片岡忠彦。野性時代2005年7月号から2007年1月号まで不定期掲載をまとめた短編集。
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コメント
>すみれさん

コメント+TB、ありがとうございますw 感想お疲れ様でした〜!! 
でも、実は楽しみにしてたのw 
そちらにコメントに行くのは今日の夜になりそうです。 すみません!!

いつもの如く甘々なんだけど、確かにそれだけでは終わらないですよね。 
特殊な職業ゆえの大変な部分がきちんと描かれているので、
恋愛にもその「職業病」が顔を出しちゃうところが面白いんですよね。

『有能な彼女』は夏木さんがめっちゃ素敵ですよねー。
何ていうか、懐小さいことをウジウジ考えてる割に、一番度量が広いのも彼なんですよね。
悩みながらも望ちゃんを選んだあたり、カッコ良よかったw
Posted by:りる  at 2008年03月06日(木) 02:30

やっと記事UPできましたー。

どれも特殊なお仕事をどちらかがされているので、ベタ甘なお話でもただのベタ甘でおわらないのが有川作品といったところでしょうか。

個人的には”有能な彼女”が好きです。
望のめんどくさい性格をものともせず付き合える夏木がステキです。
好きになったらめんどくさいところも好きになれるのか(もしくは気ならないかどちらか)と、うらやましかったりします。

Posted by:すみれ  at 2008年03月05日(水) 22:53

>藍色さん

コメント+TB返し頂きまして、ありがとうございますw 
仰るとおり、自衛官であることにプライドを持っている、という点がとても良かったです。
そこを抑えての一途な恋愛は、とことん応援したくなりました。

そこ、笑っておいて下さい(笑)。 
ちょっと私もいろいろ己を省みようと心に決めた作品でした。
夏木さんがすっかりお気に入りなので、本編を読んでみようと決意。
確かに、まだ有川作品を読める幸せは、自分でも感じます。
大切に読んでいこうと思ってますw
Posted by:りる  at 2007年12月25日(火) 02:12

こんばんは。
体育会系のノリに加えて、一本気で仕事に誇りを持っている登場人物が
それぞれ一途に恋愛している様子が、微笑ましかったですね。
「有能な彼女」の
“個人的に、一番他人事に思えないお話(笑)。”に、
笑っちゃいました。
これから各作品を読まれる楽しみがあるなんて、うらやましいです。
Posted by:藍色  at 2007年12月25日(火) 01:46

>べにすずめさん

コメントありがとうございますw
おお、雑誌掲載時にお読みでしたか!! 文芸誌を読んでらっしゃるなんて素敵ですね。
私が読む文芸誌っちゃぁ『メフィスト』だもんなぁ(またマニアックな…)。

そう、恋愛話ばかり書いてしまいましたが、嫌な上司への対応など、社会人話としても一番きちんと描かれた作品が表題作でした。 私が聡子ちゃんなら、辞めてますきっと(笑)。 「そんな甘いことじゃダメよ!!」と言われてる気がしました。 本物の社会人ってスゴイです。

>ハードカバーが多いので手を出しあぐねておったのですが

気持ち、分かります。 私もこの本はブックオフで入手しました。
(『図書館』シリーズは新刊本ですが)
文体的にラノベに近いので、ハードカバーで出版する意味を売り上げにしか見い出せないのは確かです。 大判のソフトカバーにしてあと300円安くするだけでもっと読者層広がると思うのですが…。
Posted by:りる  at 2007年12月23日(日) 22:55

わたしは「クジラの彼」だけ雑誌掲載時に読んだみたいです。2005年7月6日付で「彼となかなか会えず、会社ではろくでもない上司にイラつく女性の気持ちがめちゃ上手く書けてました。」と記述してますね。当時はさるさる日記で字数少なかったからあまり書けなかった、と好意的に解釈しておきましょう。
この方の作品はハードカバーが多いので手を出しあぐねておったのですが、2005年1月に友人が確か「空の中」を紹介してたので知ってはいて。でもこんなに有名になるとはなあ……妙にマニアックなこと覚えるとそんな感想ばっかりですわ。
Posted by:べにすずめ  at 2007年12月23日(日) 01:55